ほろ苦Honey Day――桐島雨響×神崎風華 番外編――
 
「君の瞳に完敗。」より、雨響くんと風華ちゃんの番外編です。時系列的には、#22のすぐあとといった感じです。
いつも冷たい響ちゃんに、風華が取った行動とは?
ちょっと後半甘めです。苦手な方はご注意ください。
 
 
 
――Side 風華
 
 「風華、邪魔なんだけど」
 「なによその言い方」
 「本当に邪魔なんだって。参考書取れないだろ」
 「……ふん」
 私は座ったまま、すこしだけ横に移動する。
 なによ、響ちゃんってば。相変わらず私には冷たいんだから。確かに、参考書が置いてある本棚の前に座ってた私が悪いけど……。
 「冷たいんだから。私がいても課題?」
 「多いんだよ。しょうがないだろ」
 響ちゃんは課題のプリントから目を離さずに答えた。
 「だいたいお前、昨日も来てただろ。受験生なんだから勉強しろ」
 「べつに大丈夫だもん」
 受験生って言ったって、まだ4月の終わりだよ?受験より、5月の修学旅行のほうが一大事よ。
 心の中で響ちゃんにそう言い返して、修学旅行に行ったら、4日も響ちゃんに会えないのは寂しいなあ……って思った。きっと響ちゃんは、
そんなこと思ってないんだろうな。
 「……私も岸浜北受けようかな」
 私がぽつりと呟くと、「バカ言え。お前はいいから岸浜南受けろよ。もったいないだろ」と響ちゃんが言った。
 「だって、一緒のところ行きたいもん」
 「アホか。家隣なんだから、いつでも会えるだろ」
 響ちゃんはわかってない。そういうことじゃないんだってば。だいたい、こうやって私が家に来てたって、私のことなんて構ってくれない
じゃない。
 
 
 この春から、響ちゃんは高校生。今まで同じ中学に通っていたのに、急に離れちゃって、私はすごく寂しい。
 平日は響ちゃんが忙しくて会えないから、こうやって土日に遊びに来る。だけどこれなんだもん。
 私のことなんて、ぜんぜん相手にしてくれない。きっと、今私が帰ったって絶対気付かないと思う。
 響ちゃんはすごく大人っぽくて、冷静で、冷たくて、でもちょっとだけ優しい。私は会うたび好きだなって自覚するけど、同時に自分の
子供っぽさにも呆れる。
 こんなひとの彼女が、私でいいの?って何回も何回も思った。なんだか、響ちゃんの隣にいるとアンバランスな感じがするし。
 かっこいいなあ―――。
 私は一生懸命課題をやってる響ちゃんの横顔を見て、ため息をついた。
 だんだんかっこよくなっていく響ちゃん。同級生の女の子のほうがよくなっちゃうときが、いつか来るのかなあ……。
 
 「響ちゃん」
 「なに」
 「課題、いつ終わるの?」
 「もうすこし」
 私はそう答えた響ちゃんを睨みつけた。到底、響ちゃんは気付かない。
 こんなことで寂しいだなんて、やっぱり私って子供だなあ。前から響ちゃんはこうだったけど、高校入ってから、もっとそっけなくなった
気がする。
 離れていっちゃう。そう思っただけで泣きそうになって、そのたびにこらえる。
 響ちゃんの前で泣いたりなんかしたら、迷惑だから。私、響ちゃんに迷惑かけたくないもの……。
 
 「……響ちゃん」
 「だからなに」
 「……なんでもない」
 私が呟くと、「どした?」と響ちゃんが振り向いた。
 「なんでもない。課題やってていいよ」
 私は笑って言って、ちょっと潤んだ涙を手の甲で拭う。
 「……どうしたんだよ」
 響ちゃんは椅子から立って、私の隣に座った。
 「なんでもないよ」
 「なんでもなくないだろ」
 響ちゃんは心配そうに私の顔を覗き込んで、私をじっと見た。
 ……優しいんだか冷たいんだか、どっちかにしてよ。冷たいんだったら、ずっと冷たくしててくれたらいいのに。
 
 「風華」
 小さく名前を呼ばれて、今度こそ涙が溢れそうになった。
 「……かまって」
 「え?」
 「ちょっとだけでいいから、かまってよ」
 私は響ちゃんにぎゅっと抱きついて、ねだるように言った。
 「え……?」
 「寂しい」
 響ちゃんが慌ててるのがわかって、ちょっと可笑しくなる。そして、響ちゃんのこういうところはかわいいなあって思う。
 いつも迫るのは私のほうだもんね。響ちゃんから抱きしめたり、キスしたり、たまーにしてくれるけど。
 「風華……」
 響ちゃんはすこしづつ私の背中に腕を回す。距離が縮まっていく。自分から抱きついたくせに、どきどきしてきた。
 
 
 
――Side 雨響
 
 ……あんまり可愛いことしてんじゃねえよ。
 俺は心の中で風華にそう言って、風華をぎゅっと抱きしめた。
 「響ちゃん」
 風華が俺の腕の中でそう呟く。たまんなくなって、また腕の力を強めた。
 
 最近の俺は、確かにおかしかった。風華がそれを気にしているのはなんとなくわかっていたのだ。
 俺は感情を外に出すのがすごく下手で、しかも素直じゃない。久保なんかにはけっこう出してるけど、風華には絶対に無理だ。
 久保より風華のほうが一緒に過ごしてきた年月は長いはずなのに、風華に素直になることは出来ない。それはきっと、俺が風華を好きで
しょうがないから―――。
 風華には誰よりも冷たくしてしまう。それに、一緒にいるとどうしていいかわからなくなる。
 本当は誰よりも優しくして、甘やかして、ずっと一緒にいたいくせに。だけどそんなことは絶対に口に出せないし、実行にも移せない。
 「ごめん」
 俺が風華の耳元で言うと、風華がびくっと体を強張らせたのがわかった。
 「なにが?」
 「いろいろ」
 普通、彼女のほうから迫ったりとか……しないんだよな?いや、するのかもしれないけど。俺たちときたら、いつも抱きつくのも風華だし、
キスも風華からしてくるほうが多いし。
 その先からは、そりゃあ、俺が……するんだけど。でもそんなの滅多にないし。いつもキス止まりだし。
 俺がなかなか風華に手を出せないのは、俺が奥手だっていうのが半分、風華を大事にしたいっていうのが半分。
 抱きしめただけで壊れそうだなって思うのに、迂闊に手なんか出せないもんな……。それに、風華が中学生の間は最後までいくのはちょっと
なあ、って思うし。
 それでも、俺がよっぽど耐えられなくなったときは、まあ、それなりには―――。
 
 「……響ちゃん、だーいすき」
 風華が嬉しそうに言って、へへへと笑った。くすぐったいような風華の笑い声が、俺の耳を通り過ぎていく。
 どくん、と胸が鳴って、またたまんなくなって、さらに腕の力を強めた。
 「俺も、好き」
 ゆっくりと言って、風華を離す。そして風華の唇に、そっと自分の唇を重ねた。
 自分からキスしたのって久しぶりだ……そんなことをぼんやりと思って、また風華を抱きしめた。
 
 「んっ……」
 風華が苦しそうにしているけど、まだやめたくない。
 「どした……の……?」
 いったん唇を離す。風華はよっぽど苦しかったらしく、息が切れている。
 「―――ごめん」
 謝ったからな、と前置きして、俺はまた風華に口付けた。
 さっき大事にしたいとか思ったばかりなのに、もう耐えられなくなってる自分がほとほと情けない。
 どうしたんだ俺は。さっきまではなんともなかったのに、今は、風華にキスしたくて仕方がない。
 そうだ。風華が「かまって」なんて言ってきたからだ。それで、止まらなくなったんだ。
 ああ、なんか、俺……今、すごく風華が欲しい―――。
 
 「や……響ちゃ……」
 風華の口からときどき声が漏れて、それが余計に俺を煽った。
 可愛い、可愛い、可愛くてしょうがない―――口に出せない想いが、俺の中で燻っている。思っても言えないから、だんだん溜まって
いくのだ。
 だからこうしてスイッチが入ると止まらなくなる。もう今日はきっと止まらない。課題どころじゃないぞ、これは。
 「風華……」
 俺は唇を離して、風華の首にキスを落としていく。風華は俺の服の裾をきゅっと摘んでいた。
 「だ、だめだって……響ちゃん、か、課題っ……」
 「風華が構ってって言ったから」
 俺はそっけなく言って、また首にキスをする。風華は色白だから、首もきれいだ。キスをするたびに震えるから、それがまた可愛い。
 「や、ちょ……ひゃっ……」
 「声、可愛い」
 俺はすこし笑って、風華の服の中に手を入れた。
 「ちょ、だめ……そこまでしてなんて言ってな……」
 「いや、俺が耐えられないし」
 風華の抵抗なんて痛くも痒くもなく、俺はあっさりと言って、服の中をまさぐった。
 「響ちゃん……」
 風華が泣きそうな顔をして、俺を見つめる。やめてと訴えてるつもりなのだろうが、やっぱり俺を煽っているようにしか見えない。
 「……倒していい?」
 「え?」
 風華が不思議そうな顔をしている間に、俺は風華を床に押し倒した。
 可愛いなあ、本当に。言葉にはなかなか出せないけど、俺はこいつのことを可愛いって、いったい何百回思ったんだろう。
 
 止まらねえなあ、今日は……。
 最後までいかないように努力します。そう誓ってから、風華にまたキスした。
 「好き」とか「可愛い」って言うよりも、こういうふうに愛情を示したほうが楽なのかもしれないな……。風華は言葉で表してほしい
んだろうけど。
 
 ―――いつか、誰よりも優しくして、こいつのことを甘やかせたらいいな。
 可愛すぎる風華を見て、俺はつくづくそう思った。
 
 
 
 
*****
あとがき
「君の瞳に完敗。」から、響ちゃんに構ってほしくてしょうがない風華ちゃんと、欲望が止まらず暴走した雨響くんでした。
なんか甘め&ちょっとだけアレな感じでごめんなさいでした。苦手な人はもっとごめんなさいでした。
ちなみに、ホントに最後まではいってません。ちゃんと止まってます。だからこの日も止まるはずです。
響ちゃん、本当は優しいところもあるんだけどね。ついつい冷たくしちゃうみたいです。愛情の裏返しってことで!(笑
 
 
 
 
 
 
 
 
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